広島高等裁判所 昭和28年(う)669号 判決
論旨は、被告人は西本敏美に利用され、本件金員は同人の詐欺に基く騙取金である事情を全く知らないで単に同人のため受取つたに過ぎないのであるから詐欺の犯意はなかつたものであり、従つて原判決には事実の誤認があるというのである。よつて原判決の認定事実をその挙示する証拠と対照して検討するに、被告人は原判示のように西本敏美に依頼せられ、同人が境教一を欺いて鹿田昇所有の山林の売渡代金名下に金三十九万五千円を騙取するに当り、右鹿田昇の妻であると詐称して境教一より右金員の交付を受けたことは明らかであるけれども、当時右西本敏美と共謀して即ち右金員が西本敏美の詐欺に基き騙取するものであることを知りながらこれに加担して受取つたものであることは確認するに由なく、記録を調査するも右の点の証拠は存しないところである。そして被告人が右のように単に鹿田昇の妻であると詐称し境から該金員を受取り、境においても鹿田昇の妻と信じたがためこれを交付したものであつたとしても、被告人において前記西本の基本たる詐欺の事実を知らなかつた以上本件詐欺の犯意があつたということはできないのである。従つて原判決は証拠によらないで事実を認定したか又は法律の解釈適用を誤つた違法があるに帰し、右の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。